2024-05-31
今年初め、欧州投資銀行は、北欧投資銀行、BNPパリバ銀行、ソシエテ・ジェネラル、テマセク・ホールディングス、INGグループという大手金融機関と協力して、スウェーデンの鉄鋼会社に2億5000万ユーロ(約425億円、1ユーロ=170円で計算、以下同様)の資本注入を行うと発表しました。
欧州投資銀行が資金面で支援するだけでなく、EUの炭素権収入で構成されるEUイノベーション基金(European Innovation Fund)も補助金を支給します。環境に最も優しいと主張するEUが、なぜ新たな鉄鋼会社に今なお投資するのでしょうか。
欧州投資銀行は、鉄鋼会社に投資するのは、鉄鋼産業が戦略セクターであり、EU経済の中核でもあるため、「弊行は2050年ネットゼロを約束しています。この産業には大規模な変革が必要です」と述べました。 また、グリーンエネルギーなどの新興グリーンテクノロジーに焦点をあわせるだけでなく、サステナブルファイナンス、グリーンファイナンスという観点からも炭素高排出産業の低炭素化へ移行を無視することはできません。
このスウェーデンの鉄鋼会社は、世界初の量産型水素製鉄所と称しており、その製造プロセスは石炭の代わりに水素を使用するグリーンスチールです。一度量産規模に達すると、従来の製鉄方法と比較して炭素排出量を95%削減することができます。国立台北大学商学部の黄啓瑞教授は、過去に政府と金融機関が議論していたサステナブルファイナンスとは、金融業界が再生可能エネルギーなどの脱炭素産業を支援することを意味していた、と説明しています。
しかし、鉄鋼、セメントなどは炭素排出量の多い産業ではあるものの、重要な必需品でもあることに、その後、誰もが徐々に気づきました。それゆえ、国際的に新しい融資システムを発展させ始めました。重要な点は、炭素高排出産業を消滅させたり、純粋にこれらの産業から資金を引き揚げることではなく、次の低炭素生産の段階に安全に移行させることです。そのためEUは政府の資源を通じて、民間資本が「トランジションファイナンス」に投資することを奨励、炭素高排出産業の脱炭素化を支援しています。
国際的なサステナブルファイナンスとトランジションファイナンスの歴史 | |
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年月 | 内容 |
2020年3月 | 欧州連合は、特定の生産方法を低炭素製造プロセスとして明確に定義、民間投資を誘導するために「EUサステナブルファイナンス分類基準」を発表 |
2022年11月 | G20が「G20トランジションファイナンスの枠組み」を発表 |
2023年12月 | グラスゴー金融同盟(GFANZ)がトランジションファイナンスに関する方針を公表 |
炭素高排出産業の変革に対する支援ですが、欧州投資銀行による資本注入に加えて、EUにはトランジション・ファイナンスの別の重要な手段があります。それは、産業の低炭素生産段階への移行支援を目標とした次世代EUグリーンボンド (NGEU) です。
セメント、化学、肥料、鉄鋼、航空、海運というエネルギー集約型産業は総炭素排出量の 3 分の 1 を占めています。変革計画が早急に必要であり、それがあってようやく炭素削減目標を達成することができます。もし、パリ協定の排出削減目標を本当に達成するのであれば、2020年から2050年までの年間必要投資額は1.5兆ユーロから3.5兆ユーロ(255兆円から595兆円)にのぼるとEUは試算しています。
グリーンボンドに加えて、EU イノベーション基金も炭素高排出産業の変革を支援する EU の強力なツールです。主な資金源は、炭素高排出産業が排出上限を超えたため購入する炭素排出権で、補助金あるいは奨励金を通じて炭素高排出産業が特定の炭素削減技術を開発するのを助成します。
『ブルームバーグ社』の統計によると、同基金は設立から4年で総額60億ユーロ(1兆200億円)を投資し、そのうち50億ユーロが電力、鉄鋼、鉱業というエネルギー集約型産業向けでした。例えば、フランスのガス大手エア・リキードグループとスイスの大手セメント会社ホルシムなどで、すべて炭素回収技術の開発に補助金を受けています。また、シェル石油とドイツのRWEグループは資金を水素製造に利用しています。
欧州委員会気候行動総局のヴァンデンバーグ総局長は、これらの計画がすべて成功するとは限らないが、同基金が投資するのは最新かつ発展の潜在力を最も有する計画であり、少なからざるリスクが必ずあるだろう。このような事情だから、「民間資金がこれらの計画を支持するかどうかは定かではありません、ですから私どもがしなければならないのです」、と語りました。
翻って台湾に目を向けますと、EUと同じようにエネルギー集約型産業の変革という課題に直面しています。たとえば、台湾第 2 位の炭素排出企業である中国鋼鉄(China Steel)は、炭素コストの上昇に向き合わなければならないだけではなく、世界の製鉄所が低炭素製造プロセスに多額の投資を行っており、巨大なプレッシャーを受けています。
中国鋼鉄の翁朝棟会長は、「これは間違いなく非常に大きな課題です。弊社創業以来、最も困難かつ最大の変革(低炭素製造プロセスのアップグレード)と言えます」と切羽詰まった感じで述べました。
この点について鉄鋼業を例に挙げると、当時の曽文生・経済政務次官は、各国が水素エネルギー製鉄に補助している金額は多額にのぼるが、台湾の現在の財政規律に照らし合わせると、追随することは比較的困難である。第一に、台湾は起債の上限をとても気にしている。第二に、水素エネルギー製鉄は最先端のティア 1 競争であり、投資額もリスクもともに極めて大きい、と語っていました。各国政府が炭素高排出産業の脱炭素化を支援しているという事実に直面し、資金を増やせない場合には、たとえば、ソブリン・ウェルス・ファンドを新財源にするなど新たなメカニズムを考慮しなければならない可能性もある、とも述べました。
その他、台湾もEUに倣い、まもなく徴収が始まる炭素税を利用して排出量削減が難しい産業の変革を支援することは可能でしょうか。中華経済研究院グリーン経済センターの劉哲良・副センター長は、台湾の「気候変動対応法」には炭素税の用途が10数種類記載されており、これには炭素削減技術の研究開発に対する補助、奨励、激励も含まれる、と述べました。政府は、たとえば炭素高排出産業に排出削減に排出削減量を具体的に約束するよう求め、目標を達成できれば優遇税率を適用するように、等級税率を利用することで企業が自己資金を投入してエネルギーの利用効率を高めたり、革新的な炭素削減製造プロセスに投資することを奨励できます。また、炭素削減が困難な状況に直面した場合、課題のあるエネルギー集約産業に資金を投じ、EU方式にならって納付された炭素税を特定の炭素削減計画への補助に充てることも可能です。
国立台湾大学理学部の趙家緯・非常勤助理教授は、台湾の課題は炭素高排出産業が炭素を削減する過程および投資が必要な製造プロセスで、完全な研究と議論が不足していますし、社会の共通認識もありません。「ドイツはそれを評価するだけで7、8年を費やしました」、と語りました。
趙助理教授は、将来、台湾のトランジションファイナンスと炭素税の用途を考えるのであれば、原則としてこれらの資金を、既存の製造プロセスの効率や能力を高めたり、現有の設備を淘汰交換するような、まるで古い高炉を新しい高炉に換えるような、炭素高排出産業の「漸進的な改革」に使用すべきではなく、革新的な炭素削減製造プロセスに使用する必要がある、また、ビジネス モデル全体の炭素削減効果を考慮し、小さな実験にとどまっていてはなりません。どの年にどれだけの成果を達成するか、といった目標のように、明確な検証システムも必要である、と考えています。
資料來源: 『天下雜誌』Web only 2024-04-23
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