2024-06-28
化合物半導体(Compound Semiconductor)、いわゆる「第 3 世代半導体」、「第 3 型半導体」は、テスラModel 3に搭載されたことにより、かつて世界のテクノロジー業界でホットな話題になりました。最近では電気自動車産業以外でも、化合物半導体は新たなビジネスチャンスを迎えています。すなわちAIサーバーです。AI時代においては、化合物半導体を使用して電力効率を向上させることが急務となっています。では、材料、製造プロセス、商業用途の面で、化合物半導体産業にはどのような困難や課題があるのでしょうか。以下は、台達電子工業(Delta Electronics)傘下の乾坤科技(Cyntech)最高技術責任者であり、化合物半導体のゴッドファーザー級人物である詹益仁・元財団法人工業技術研究院電子光電研究所長による最新の見解です。
化合物半導体で主要なのは窒化ガリウム (GaN) や炭化ケイ素 (SiC) といった新材料パワーコンポーネントです。これらのお蔭でより高速の充電とさらなる軽薄短小化が可能になります。この話題は過去には電気自動車から始まりましたが、最近では電気自動車に関する悪いニュースが絶えず、整理期に入っています。しかし、化合物半導体は他のホットな分野で新しい機会を迎えています。それが現在最も人気のあるAIサーバーです。
台達電子工業会長は昨年の株主総会で、同社最新の3200ワットチタン合金グレードのサーバー電源は窒化ガリウムコンポーネントを使用することで、エネルギー密度の25%もの大幅向上、電力効率の94%から96%への上昇、電力の2%節約が可能になる、と言及しました。
高電力消費が目下、生成AIの最も頭の痛い問題です。アドバンスト・マイクロ・デバイセス(AMD)の 蘇姿丰(Lisa Su)最高経営責任者は、かつて、数年後、スーパーコンピューター1台は原子力発電所1基に依存するだろう、と述べたことがあります。さらに、2027 年におけるAI全部の電力消費量は、オランダ一国の電力消費量に相当する、と推計する研究もあります。
AI時代の到来により、GPUであれCPUであれ、消費されるDC(直流)エネルギーはますます多くなっています。過去には 200 ワットまたは 300 ワットでしたが、現在は 700 ワット、将来的には 1,000 ワットから 1,500 ワットに達する可能性があります。これほどの高エネルギーは必ずパワーモジュールによって供給される必要があります。
GPUまたはCPUチップが必要とする電圧は約 0.7 ボルトと非常に低いため、電源は、たとえば12 ボルトまたは 48 ボルトといった外部のボルト数から12 ボルト、5 ボルト、または0.7 ボルトに継続的に変換しなければなりません。そして、変換は半導体によって促進し完成させる必要があります。
コンポーネントの電流駆動能力に関しては、シリコン半導体と比較すると窒化ガリウム半導体に優位性があります。まず第一に、例えれば、シリコン半導体は2車線の高速道路で、車が多いときには速度が落ち、車の流れが飽和し始めます。これに対して、窒化ガリウム半導体は10車線の高速道路のようなもので、さらに多くの車が進入してきても時速100キロメートルの速度を維持することができます。したがって、電流駆動の面では、窒化ガリウムがGPUとCPUに提供する能力は非常にすばらしく、抵抗値は比較的低いですし、変換効率もも高くなります。
2 番目の利点は、変換プロセス中のトランジスタのオンとオフです。窒化ガリウム半導体では、わずか1 つの制御バルブが閉じると、トラフィックフローすべてが停止、切り替え速度はとても速く、使用される受動部品を非常に小さくすることができます。しかし、シリコン半導体では、1つのメイン制御バルブだけではなく、その傍らにいくつかあるため、それらを一緒に閉じる必要があり、操作がより複雑になります。しかし、この30年間、シリコン半導体の変化はあまりにも大きいものでしたが、化合物半導体の研究開発はあまり変わっていません。化合物半導体は、特に国防や宇宙など、当初からニッチな用途に利用するよう位置づけられていたため、ビジネス上、大量に応用するのは難しいからです。
化合物半導体それ自体の結晶はシリコンほど均一ではありませんし、簡単には管理できない微小な差異があることから、材料そのものを制御することが難しく、製造プロセスの制御はさらに困難です。
化合物半導体は2 つまたは 3 つの元素で構成されているので、温度の影響を受け、蒸発する速度も同じではありません。さらに重要なのは、化合物半導体にはシリコンほど安定した酸化物層がないことから、ビジネスでの応用可能性が長い間制限されてきたことです。そのため、長期間にわたって将来の素材と見られてきました。3G時代に至り、電力増幅器(パワーアンプ:PA)が登場し始め、化合物半導体をめぐる状況はようやく少し好転しました。そうでなければ、十数年の間非常に低迷していたでしょう。
化合物半導体界の台湾積体電路製造(TSMC)は出現するでしょうか?
これは完全に規模の経済を見る必要があります。シリコン半導体には規模の経済があるので、台湾では「垂直分業」の形態になっています。ですが、化合物半導体は最初、少数派のニッチ市場でした。この市場でシリコン半導体と同じビジネスモデルにすれば垂直分業になりますが、もしそうすれば、悲惨なことになるでしょう。したがって、「垂直統合」が必要になります。これが化合物半導体とシリコン半導体の最も異なる点です。
テスラは実験室で長年、研究開発してきた炭化ケイ素をModel 3に使用していますが、これには多くのビジネス上の意思決定の問題があります。重要な方向性は規模によって決まりますが、すべての事情について垂直分業の視点からこの産業チェーンを見ることはできません。
シリコン半導体は大衆市場に直接向き合っており、その過程で多くの創造的な発明がありました。たとえば、iPhone、現在のAIなどです。28、15、10から5ナノメートルまで、アプリケーションは異なっており、テクノロジーは需要によって発展させられます。
化合物半導体は少数派のニッチ市場であり、ムーアの法則のようなものはなく、全世界から集まった力が共同して1つの問題を解決するということはありません。くわえて、もともとの材料自体が非常に扱いにくいことが、テスラが化合物半導体を使う理由です。なぜならテスラはスタートップ企業だからです。
炭化ケイ素は現時点では依然として甚だ高価ですが、システム全体の功能から見れば、比較的高価な材料を使用しているとはいえ、放熱各方面において熱対策を減らすことができるのであれば、全体としては大いに引き合うことになります。
したがって、テスラが炭化ケイ素を採用し始めたのですが、その意義は1つの突破口みたいなものです。部分的には心理上の障壁もあってビジネス社会では最初のモルモットになりたがる人はいませんが、炭化ケイ素が信頼できる半導体材料であり、最初のモルモットが使用した後に、自動車には何事も発生したなかったことがわかると、皆が使い始めるでしょう。
テスラが率先して炭化ケイ素を使用し、BYD がテスラに続きました。 BYD が自社で炭化ケイ素を製造、使用していることは誰もが知っていますが、もしBYD が自社で自動車を所有し、炭化ケイ素も製造するように、炭化ケイ素産業が電気自動車に連れ添って歩むとしたら、台湾の炭化ケイ素企業の前途はどうなるだろうか、と議論しています。
実際、第 3 世代半導体という用語は中国によって作られたものです。中国人は非常に熱心ですし、生態系全体はますます複雑になっています。現在、世界中の多くの大手メーカーが中国人と長期契約を結び始めています。
中国の企業は戦略的な低価格競争を採用しています。現在のところ台湾の戦略は明確ではありませんが、これを過去にシリコン半導体を生産していた観点からこの事情を考えることはできません。
たとえば、パッケージングが材料の製造プロセスと多くの技術に関連しているように台湾はさらに多くの垂直統合が必要です。この部分を上手に統合できれば、まだ多少のチャンスはあるでしょう。
資料來源: 『天下雜誌』Web only 2024-04-08
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