2025-09-26
The Business Research Companyの《2025年グローバルスポーツテクノロジー市場レポート》によると、世界のスポーツテクノロジーの市場規模は2029年には454.8億ドルまでに成長し、年の平均成長率は17.1%に到達すると示している。またSports techXの2025年のデータからは、世界的にスポーツテクノロジーは全面的な変革期に入っており、人工知能(Artificial Intelligence, AI)・ウェアラブル技術と拡張現実(Extended reality, XR)は、従来の競技パフォーマンスから健康管理のフェーズへと、スポーツテクノロジーの全面的なアップグレードを推し進めていることが見て取れる。近年は投資の動きが強まっており、北米ではコンテンツ革新に重点を置き、ヨーロッパはアスリートのソリューションに偏重、またASEANでは管理ツールや包括的保健(Comprehensive Health)のアプリケーションが台頭している。台湾のスポーツテクノロジー産業は急スピードで成長している。台湾の工業技術研究院 (ITRI)の産業テクノロジー国際戦略開発所はスポーツテクノロジー産業発展における潜在力について分析を行い、台湾のスポーツテクノロジー産業は既存のフィットネス機器サプライチェーンと情報通信技術(Information and Communication Technology, ICT)産業が持つ優位性を利用し、スマート施設、スマートスポーツとフィットネス、スマートトレーニングプラン及びeスポーツなどの分野において国際的な競争力を有している、と述べている。
Precedence ResearchとGrand View Researchのデータは、2025年のスポーツテクノロジー産業が「データ駆動パフォーマンスの最適化」および「イマーシブ体験の収益化」の二つを軸として推し進めていることを示している。データ駆動パフォーマンスの最適化を例にあげると、国際サッカー連盟(Fédération Internationale de Football Association, FIFA)の試合とアメリカのプロバスケットボールリーグ(National Basketball Association, NBA)の試合では、すでにAIによる光学トラッキングとリアルタイム分析をあまねく導入しており、スポーツチームが動作データに基づいて動的戦術を調整したり、アスリートのパフォーマンスについて精密な評価を行う一助となっている。高度な生体センシングウェアラブルデバイスは持続的に変革を続けており、心拍数・睡眠・活動量などの生体指標のセンシングにとどまらず、AIを用いて疲労分析・怪我リスクの予測・個別にカスタマイズした健康プランを結合して、スポーツにおける予防・トレーニングから回復に至るまでのスマート循環を形成している。
また没入型体験(イマーシブ)分野においては、世界最高峰の試合において既に、XRと3D動画のリアルタイムリプレイ、AI音声解説、イベントのインタラクティブビッグデータサービスを導入しており、リアルと仮想観戦への没入感レベルの向上を図っている。アメリカのメジャーリーグベースボール(Major League Baseball, MLB)、USオープンテニス(US Open Tennis Championships, US Open,USオープン)、アメリカのナショナルサッカーリーグ(National Football League, NFL)のいずれも、デジタル判定とAIシーンブレイクダウンを用いて試合の判定プロセスを強化しており、会場全体のリアルとバーチャルの融合とデジタルコミュニティの収益化を推進している。エンターテインメント・競技・トレーニング・健康管理を共にアップグレードし、プラットフォーム技術で多様な分野をリンクさせて、スマートデバイス・コンテンツの拡充と押し活(ファン活動)といった新しいビジネスモデルの成長を促している。
台湾は情報通信技術において、完全なる産業チェーンで優位性を有しており、ハードウェア製造・センサー部品・無線通信(5G/専用ネットワーク)・エッジコンピューティングからクラウドサービスに至るまで、それぞれの重要な環節がしっかりリンクしている。例を挙げると伍碩科技(5Voxel Co., Ltd.)は深層学習と3D映像技術を用いてスポーツ施設のリアルタイム動作分析とスマート管理をサポートしている。晶瑞光電(KingRay Technology Co., Ltd.)はエッジコンピューティングの光学センサーモジュールと熱画像技術に特化しており、健康モニタリングとスマートスポーツの環境で広く応用されている。精誠資訊(SYSTEX Corporation)は、クラウドとAIデータのプラットフォームを構築し、生体データと運動データを統合してカスタマイズした個別アドバイスを提供している。喬山健康科技(Johnson Health Tech. Co., Ltd.)はAIの生体センシングとランニングマシンやローイングマシンなどの機器を結び付け、クラウド型パーソナルカスタムトレーニングや遠隔健康管理を実現させた。紐因科技(NeuinX Co., Ltd.)はAIを用いて試合映像を分析し、スポーツテクノロジーのトレーニング定量化向上のサポートをしている。宇康医電(uCare Medical Electronics Co., Ltd.)は医療水準のセンサーとAIアルゴリズムを統合して、リハビリや活力向上の促進を支援する健康スポーツプラットフォームを構築した。これらの企業は続々とAI・ビックデータとセンサー技術を導入して、トレーニングモニタリングの自動化・専門データのリアルタイムフィードバック・カスタマイズしたパーソナルトレーニングの提案および遠隔健康管理を実現している。それは台湾のスポーツテクノロジーがすでに基礎レベルから専門用途に至るまでの全ソリューションを有することを示している。
また国際協力について、近年台湾のスポーツテクノロジーは国際協力と実地検証を積極的に展開している。例を挙げると宏達電(HTC Corporation)はMLBと提携して公式認可を受けた《MLB Home Run Derby VR》を打ち出したことで、野球ファンはバーチャルリアリティ(VR)において、バッティングの楽しさを体験できるようになった。またF1などの国際カーレースチームとの継続的な提携を通じて、イマーシブ型のカーレースVRトレーニングを推進。スマートフィールドの分野においては、日本電信電話株式会社(NTT)が桃園にある楽天モンキーズと協力して、桃園国際野球スタジアムに超現実遠隔観戦技術とスマートスタジアムアプリを導入して、12K映像のリアルタイム中継と多元的なインタラクティブサービスを実現し、現地とオンラインの試合観戦のエクスペリエンスを大幅に向上させている。他に、機器のイノベーションに関しては、台湾の新興企業であるスタートアップラバトリー(Keep Tossing Lab., Inc.)を例に挙げると、同ラバトリーはAI視覚認識と生物力学の分析技術を用いてb4-appを開発した。このアプリを使用するとユーザーは携帯電話と三脚だけで、スイングの角度・球速・骨格の動きなどといった専門的なデータを即時に取得することが可能となる。近年ではアメリカ市場へ積極的に進出しており、現地のコーチ陣や野球チームと戦略的パートナーシップを結び、少年野球やアマチュアチームのレベルでテクノロジー野球の実地検証を進めている。これらの事例は台湾がサプライチェーン・技術力・フィールド応用において、グローバルなビックカンパニーとパートナーシップを結ぶ実力を有することを示すものである。
世界的なスポーツテクノロジーは正に「データ駆動 × イマーシブ × AIプラットフォーム化」という三つの主軸に沿って急速に拡大しており、応用シーンはますます多様化している。台湾には優勢を保つICT(情報通信技術)産業といった強固な基盤があり、製造とシステムを統合するエネルギーを完備している。センシング・通信・エッジコンピューティングからクラウドサービスに至るまでをリンクすることで、再現可能なソリューションを構築できる。またフィールド実証試験を通じて、XRコンテンツ・スマート施設・スポーツテクノロジー機器等といった、高付加価値の応用へと結び付けることが可能となる。
資料來源: 工業研究院産業サービスセンター研究分析グループ