2025-11-26
従前のビューティー&コスメ市場は、ブランド・調合・製造をメインとしていたが、テクノロジー・バイオメディカルテクノロジー・SDGsバリューにより急速な再定義化が進んでおり、新興の原料開発・人工知能(AI;Artificial Intelligence)によるパーソナライズ体験と低炭素サプライチェーンは、同産業をアップグレードさせる推進力となっている。Nielsen IQの『State of Beauty 2025』の報告書によると、全世界のビューティー&コスメとパーソナルケア市場のボリュームは、この1年で約10%成長しており、特にアジア太平洋エリアの年間成長率は14.3%にも達し、世界的にみて最も高い成長率を示している。また、Grand View Researchの調査によると、2023年の世界のビューティー&コスメ市場規模は約2,959.5億ドルで、2030年には約4,459.8億ドルに達すると見込まれ、年平均成長率はおよそ6.1%。このうちアジア太平洋が世界マーケットの約45%を占めており、成長を牽引する重要な動力となっている。総体的にみると、消費者が製品に期待するポイントは、外見を美しく飾るといった目的から使用効果と価値を重んじるようになってきたと言える。
近年バイオテクノロジー研究の成熟と臨床評価の普及に伴い、エクソソーム(Exosome)、幹細胞(Stem cells)、ペプチド(Peptides)などの技術は、スキンケアや肌の保護・修復の分野において幅広く応用されるようになり、製品の効果はメイクアップで外見を美しく飾る目的から、肌の再生や肌の健康管理といった方向へのシフトが加速している。欧米および日本・韓国の主要ブランドは続々とこれらの研究開発への参入を果たしており、フランスのL’Oréalや米国のEstée Lauderはいずれもバイオテクノロジー専門の研究開発部門を設立して細胞再生とDNA修復技術を導入している。日本の資生堂やPOLA・オルビスは、エクソソームの情報伝達や皮膚の微生物バランスの研究に注力。韓国のAmorepacificは酵母発酵やペプチド伝達をコアと位置づけて、メディカル美容級のスキンケア調合の開発を進めている。世界中の化粧品ブランドにとって、バイオメディカル領域における研究開発は己の付加価値を高める鍵なのである。
それに併せて、AIとデジタル技術の浸透により、消費者とブランドのインタラクティブモデルの再構築化が進んでいる。フランスのL’OréalやSephora、アメリカのCotyなどのグローバルブランドはAIエンジンによる肌質判断、バーチャルメイクアップシミュレーション、パーソナライズ調合を設計する技術を大規模導入しており、ユーザーのデータ分析を通じ、人気の新商品を迅速に開発して、マーケティング効率の向上を図っている。AI技術の活用は、製品開発の効率アップのみならず、グローバルマーケットにおける消費行動を即時に把握することができ、ユーザー体験の強化を可能とした。
さらに「サステナブルでクリーンなビューティー&コスメ」は、世界的な産業界における共通認識となっている。欧米企業を例に挙げると、イギリスのUnileverやフランスのLVMH、ロレアルグループなどが次々とカーボンニュートラルやグリーンパッケージングに関する目標を定めている。アジア圏のブランドについては、日本の資生堂や花王は分解可能な調合とリサイクルパッケージ材の開発に取り組んでおり、ESG(Environmental環境, Social社会, Governanceガバナンス)評価システムがブランド競争力を構成する一要素となっている中、ますます多くの消費者が環境保護やサステナブルバリューのために、より高額な価格を支払うことに対して意欲的な姿勢を示している。総じて世界のビューティー&コスメ産業は、1)新興原料によって製品価値を高める、2)AIによって市場効率とイノベーション体験を強化する、3)持続可能なビューティーで製品の付加価値を向上させる、これらの三方向から相互に作用しあう推進力が形成され、同産業のバリューアップに向けて新たなステージへとステップアップを果たしている。
グローバルテクノロジーと消費トレンドの影響の下、台湾ではAIデジタルテクノロジー・新興原料の応用・気候に適応した持続可能な研究開発という三大分野において国際的な産業トレンドと連動しており、また徐々に受託製造から脱却し、研究開発とブランドを共に作り上げる、といった新たなフェーズへと進んでいる。
AIとデジタル技術応用の二大分野において、Perfect Corp.(玩美移動)は、台湾企業として初めてニューヨーク証券取引所に上場を果たしたソフトウェア・アズ・ア・サービス(SaaS)企業であり、また世界のビューティー&コスメ業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の重要なプロモーターでもある。同社はGAIと拡張現実(AR)技術をベースとして、バーチャルメイク・肌質診断・パーソナライズレコメンドシステム開発をサポートしており、それらはアメリカのCoty、フランスのEstée Lauder・CHANEL、日本の資生堂といった各グループ企業に採用されており、世界のビューティー&コスメ市場におけるパーソナライズ体験とネット販売の変革を後押しするものである。このことは台湾のAIビューティー&コスメ分野における技術的な影響力が、世界的に拡大していることを示している。
新興原料の応用分野において、訊聯グループ(BIONET Corp.)は幹細胞や遺伝子検査から派生したエクソソーム市場へと展開しており、AI Exosome Foundryエクソソームのグローバル研究開発のOEMプラットフォームを通じて、新サービスを打ち出した。幹細胞と植物由来エクソソーム技術をリンクさせ、アンチエイジング・美白・頭皮ケアなどの原料を開発し、多数のグローバルブランドと協力して高活性配合の共同開発を行い、高付加価値のビューティー&コスメ原料市場における台湾のポジションをより一段、向上させた。
サステナビリティと気候適応型の研究開発分野において、Taiwan Kiss Meグループ(Taiwan Kiss Me CO., LTD.)は、台湾の高温多湿な気候の特徴がもたらすビジネスチャンスを洞察して、「T-Dimensional Beauty」をコンセプトに掲げて、アジア市場におけるリーディングカンパニーとなった。台湾に気候対応型ビューティー研究開発センターを設立してAI肌質データベースと気候モデルを組み合わせて、高温多湿な気候のマーケットに適したローカライズ製品を開発し、台湾の気候と肌研究におけるイノベーション能力を誇示している。
このほか、台湾化粧品エコシステム連盟─台湾ビューティーバレー産業イノベーション連盟(Taiwan Beauty Valley)は、台湾のビューティー&コスメ業界の原材料と調合、OEM(Original Equipment Manufacturer)/ODM(Original Design Manufacturer)、流通から技術プラットフォームに至るまでの完備した産業チェーンのリンクを実現。世界最大の化粧品アライアンスであるLVMHグループが率いるフランスのコスメティックバレー(Cosmetic Valley)との長期的パートナーシップを通じて、台湾のビューティー&コスメ業界を世界的な舞台へと押し上げた。
世界的にみてビューティー&コスメ産業は、テクノロジー・バイオメディカル・SDGsをコアとする新たなフェーズへと歩を進めている。エクソソームや幹細胞などのバイオテクノロジーは、化粧品を単に外見を美しく飾るための物から、肌の修復・再生させる存在へのシフトを後押し、AIを応用することで、消費者とのインタラクティブ・製品開発・マーケティングモデルの再構築化をもたらした。それと同時に、SDGsビューティー&コスメは、もはやブランドバリューおよびグローバルマーケットへの参入に不可欠な条件となっている。台湾ではバイオテクノロジーの研究開発・AIアルゴリズム・委託開発と製造(Contract Development and Manufacturing Organization、CDMO)などの分野において高い技術力を有し、加えて2024年に再生医療法および再生医療製剤管理条例が成立したことにより政策的な基盤が整ったことで、新興原料の開発戦略の展開が加速している。このような優位性は、グローバルブランドとのパートナーシップを強化させるのみならず、グローバルサプライチェーンの一角から、テクノロジービューティーの研究開発とイノベーション拠点へと、段階的に台湾の存在をステップアップさせ、アジアとグローバルマーケットを繋げる一助となっている。
資料來源: 工研院産業サービスセンター研究分析チーム