2026-06-24

量子技術(Quantum Technology)は、今まさに実験室における検証フェーズから、大規模な商業化への移行期にあり、また人工知能(Artificial Intelligence; AI)が爆発的普及を遂げた際と同様に、ブレイクへの転換期に近づきつつあります。この技術は量子力学における「重ね合わせ(Superposition)」と「縺れ(Entanglement)」といった特性を利用することで、複数の演算ルートの同時探索を可能とし、特定の問題に対する計算速度において、従来のコンピュータやスーパーコンピュータを遥かに凌駕するスピードを実現しました。マッキンゼーの「量子技術モニターレポート2026(Quantum Technology Monitor 2026)」によると、三大主要領域、量子コンピューティング(Quantum Computing; QC)・量子通信(Quantum Communication; QComm)・量子センシング(Quantum Sensing;QS)を合算した市場規模は、2035年に約1,000億USドルに到達する見込みで、また2040年には約2,000億USドルまでに成長すると予測しています。その成長の原動力は主として、量子と従来技術をミックスしたハイブリッドシステム構造におけるブレイクスルーによるものです。即ち、量子処理ユニット(Quantum Processing Unit;QPU)をアクセラレータ(Accelerator)として、既存インフラである高性能コンピューティング(High Performance Computing; HPC)構造と組み合わせることで、商業化の応用範囲の大幅な拡大を可能にしました。
量子技術は応用フェーズへの転換期に差し掛かり、業界の短期的焦点は、データのパスワード解読といった潜在的脅威から防御するためのポスト量子暗号(Post-Quantum Cryptography; PQC)の開発に向けられています。また長期的には分子シミュレーションと量子通信を通じて、量子産業と世界のサイバーセキュリティのストラクチャの再構築が期待されます。/p>
国際的な大手メーカーは互いに、量子技術を用いたコンピューティングの限界を突破しようと競い合っており、その戦略はすでに、単なるハードウェア開発のフェーズから、エコシステム構築とコンピューティング能力の付加を並行して推し進める方向へと転換しています。アメリカのIBMは今後5年間で、アメリカにおいて300億USドル以上もの資金を投入する計画で、特に量子コンピューティングの研究開発と量子デバイス製造プロジェクトに重点を置いています。2026年末までに、検証可能な量子技術の優位性を確立し、2029年までに誤り耐性量子コンピューティング(Fault-Tolerant Quantum Computing; FTQC)を実現すると見られています。またNighthawkプロセッサとQuantum System Two構造を通じて、量子コンピューティングを標準的なデータセンターのワークフローへと組み込む見込みです。アメリカのGoogleが開発した量子チップWillowは、2024年末に量子誤り訂正指標を臨界点以下にまで引き下げることに成功し、大規模な実用的量子コンピュータの構築実現を阻んでいた技術的な障壁を克服しました。アメリカのNVIDIAは、オープンソースプラットフォームであるCUDA-Qを通じて、量子時代の制御レイヤーおよびオペレーティングシステムとしての地位を確立。同社が2026年にリリースしたIsingモデルは、自動キャリブレーションとエラー訂正に重点を絞り、またAIモデル学習のエネルギー消費効率を最適化することで、データセンターが必要としていた極めて高い電力需要を低減させました。
マッキンゼー報告書は、資本市場について、2025年の全世界の量子技術に対する投資は前年比6.3倍にのぼる126億USドルへと大幅に増加し、資金は量子コンピューティング分野へ集中した、と指摘しています。アメリカのHoneywellの子会社であるQuantinuumは、2026年1月に初めて新規株式公開(IPO)を申請、その額は約200億USドルと見られています。これは量子産業がハイリスクの投機性のものから、実質的な商業的検証のフェーズへとシフトしたことを表す象徴的な事象です。
コンピューティングリソースの整備が全世界で段階的に進むにつれて、台湾の産学・研究機関は、半導体の先端的製造プロセスや異種統合パッケージングが有する既存の優位性を積極的に活用し、量子のコアアセンブリ部品の研究開発に参入するなど、技術・研究・開発を並行して深化させています。アメリカのSEEQCは、データセンター拡張の際に直面するボトルネック、エラー訂正の低遅延問題のブレイクスルー実現のために、台湾において完璧なシステムオンチップサプライエコシステム(System on Chip; SoC)を構築し、国内の産学研がそれぞれ有する力を緊密に結びつける協力体制を打ち立てました。工業技術研究院(Industrial Technology Research Institute; ITRI)が製造した超伝導チップを、金宝電子株式会社(Kinpo Electronics, Inc.)が開発した常温コントロール電子デバイスへ組み込み、国立台湾大学(National Taiwan University; NTU)が研究開発した高速相補型金属酸化膜半導体(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor; CMOS)をインターフェースとして採用。この明確な分業モデルにより、国境を越えた技術連携とハードウェアの物理的統合が確立されました。
アメリカのRigettiと広達電脳(Quanta Computer)は、緊密で深いレベルの戦略的アライアンスを展開中です。広達電脳は2025年初頭、Rigettiに3500万USドルの株式出資を実施し、両社は5年間の共同開発契約を締結。従来の高性能コンピューティングのデータセンターと、超伝導量子コンピュータをシームレスに一体化させることと、実質的導入と商業化の加速を目的としています。フィンランドのIQM社は、台湾との技術連携を複数推し進めており、先ず2025年に台湾半導体研究センター(TSRI)と提携、サブシステム検証プラットフォームとして超伝導量子コンピューティング研究所おいて5ビット量子コンピュータシステムを構築し、研究機関向けにクラウド接続を開放しています。その後、サイエンテック社(Scientek)とも協定を結ぶなど、ローカル展開とクラウドソリューション推進を通じて、台湾国内の量子アプリケーションの発展をけん引しています。
この他、台湾国内のハードウェアデバイス供給においても実質的な進展が見られました。千附精密(CHENFULL PRECISION CO., LTD.)は、独自の超低温シーリング技術を用いて、コア冷却環境へ安定した構造的な支援を提供し、量子コンピューティングが必要とするハードウェアコンポーネントを補完することで、グローバル企業による超低温量子コンピューティングデバイスシステム開発を成功に導きました。
世界30カ国以上で国家量子戦略が策定され、その投資総額は445億USドル以上に達しています。台湾サプライチェーンの位置けは、従前の単なるハードウェアのOEMメーカーから、世界の量子研究開発エコシステムにおける重要拠点へと、進化を遂げました。2026年3月、量子産業を次世代コンピューティング領域へ引き込むことを目的に、量子国家プロジェクト第二期が始動。北部量子コンピュータサブシステム検証プラットフォームが正式に運用を開始しました。また南部には高効率量子ハイブリッドコンピューティングのホストコンピューターを設置。同年4月、経済部(Ministry of Economic Affairs; MOEA)は、台湾国内の量子産業チェーン構築を専門に担う量子産業技術振興事務所を設立しました。
同業界は明確な分業体制を呈しています。TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)は低温相補型金属酸化膜半導体(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor; CMOS)の製造へ投資。ASE (Advanced Semiconductor Engineering)は極低温における熱管理対応のための量子処理ユニット(Quantum Processing Unit;QPU)パッケージング技術の開発に着手しています。通信とサイバーセキュリティの運用を並行して推進する中、華通電脳(Compeq)と昇達科技(Universal Microwave Technology)は低軌道衛星技術を用いて量子鍵配送(QKD)のインフラを構築しました。またスタートアップ企業の熵碼科技と池安科技(Chelpis Quantum Corporation)の二社は、耐量子計算機暗号(PQC)への移行ソリューション開発に注力しています。
同時に、台湾国内の研究開発機関も、先端技術開発を段階的に進めています。2026年1月、中央研究院は相関時間が530マイクロ秒に達する20ビット超伝導量子コンピュータを発表し、国際的にも第一線レベルへ到達しています。鴻海科技集団(Hon Hai Technology Group)傘下にあるイオントラップ量子コンピューティング研究所(Trapped-Ion Quantum Computing Laboratory)は、ハードウェアからアプリケーションレベルまでを統合する垂直能力を確立するために、プロトタイプを2027年に発表する計画。台湾国家宇宙センター(Taiwan Space Agency;TASA)は、衛星と地上を結ぶ量子鍵配送(QKD)リンク構築のために、目下、低軌道衛星量子通信技術を開発中です。
世界の量子産業が研究開発の検証フェーズから商業化への移行が加速する中で、台湾は既存の半導体製造プロセスが有する優位性と、産学・研究機関における研究開発力を活かして、従来の単なるハードウェアOEMといった枠組みから徐々に脱却し、国際的なリーディングカンパニーとの緊密な技術協力関係を構築しつつあります。今後の発展におけるポイントは、国際協力の好機を保ちつつ、台湾国内の産業を、単一部品のサプライヤーからシステムレベルの統合にまで、高度化させることにあります。台湾は国の主要政策に沿って、超伝導プロセスや極低温パッケージングといったコア技術のボトルネックを打破するために、リソースの集約集中が必須です。また分野を越えたクロスオーバー人材の育成を拡大することにより、グローバル次世代コンピューティングを構成するサプライチェーンの中において、安定的かつ強靭な戦略的ハブとしての地位を確立していく必要があります。
資料來源: 工研院産業サービスセンター研究分析グループ